【第7回】お題～こんなパチンコパチスロホールは嫌だ！～元クズ田中編

【クズと虫。とは】
元クズ田中氏と鈴虫君氏が同じテーマをそれぞれの視点で語るという連載企画。第7回は「こんなパチンコパチスロホールは嫌だ！」です。随分フワッとしたテーマですね。

元クズ田中氏編

　あれは18歳、高校3年生のときだった。みんなが大学受験を終えて清々しいまでに吹っ切れた顔をしていた2月中旬。卒業まで残り2週間しかないにもかかわらず面接試験を残している自分は、ひとり浮かない顔をしていた。

　吉本総合芸能学院。お笑い養成所の面接で落ちるやつなんて、明らかに犯罪をやらかすだろとういうヤバいヤツだけ。それでも1年に数人は必ず落ちるヤツがいるという噂は聞いていたのでナーバスにもなったし、だからこそ、無事に面接を終えたときには、ミナミの街を走り回りたくなるほどの解放感があった。

　居酒屋に行こう。自分は18歳だからお酒は飲んじゃいけないが、とりあえずジュースでもいいから居酒屋に行って乾杯をしようじゃないか。噂では700人とも800人ともいわれた面接者のなかで、たまたま同じ面接の組に入った十数名のなかの有志。その6名ほどが居酒屋に行こうと面接会場を出てNGK、なんばグランド花月のカドを曲がろうとしたそのときに、吉本新喜劇の末成由美に似たババアに、声をかけられた。

「お兄さんら、吉本の芸人さんやろ？　安く
してあげるから遊んでいき。特別に4000円でいいわ」

　見ると、キラキラと派手に光る看板には｢のぞき屋｣と書かれてあった。

　ダイレクトに、かぶりつきで食い入るように見たいと常日頃思っている18歳のガキが、のぞきの、その背徳感に性的興奮を覚えるかどうかは、まあ人それぞれだろうが、自分はそれほどのぞき自体には興奮を覚えない。だけども面接を終えた解放感が、これから芸人人生をともに歩むであろう同期との出会いが、そしてなにより、ババアに吉本の芸人さんと呼ばれたことが、我々6人の心を激しく揺さぶった。

　彼女がいるから行かないという宮崎県出身のそばかす男と、お金がないからヤメておくという福井県の坊ちゃん刈りが見送る中で、地下への細い階段を降りていく。なにが彼女だ、なにが金がないだ。そんな人間が芸人で成功してたまるかと心の中で悪態をつきながら地下の真っ暗なフロアにたどり着くと、末成由美にそれぞれ離れたソファに案内され、そっとなにかを手渡された。いったい、これはなんだろう。暗闇の中で確認してみると、それはペンライトだった。

　こちらからしか見えないマジックミラーかなにかがあって、その先で豊満なバストの踊り子さんがなまめかしく踊ったり、なんだったら個人的にサービスをしてくれるもんだと、いつかエロ本で見た知識をフル動員してそんな想像をしていたわけだが、そうではないようだ。そんなことを考えていたら、真っ暗なその先からヤンキーっぽい顔をした20代中盤くらいの女がやってきて、こういった。

　ほら、ペンライトで照らしていいのよ。覗いて、覗いて～。

　言われた通りにペンライトで照らしてみると、1メートルくらい先にランジェリーっぽい下着を着た女がくねくね踊っている。想像とは違うが、まあ、それもいい。この先どうなるか見てみようじゃないか。そうやって待っていたら、女が耳元でこうささやいた。

　お兄さん、あと5000円出してくれたらブラジャー取るけど、どないする？

　入るときに4000円払ったのに、これからさらに5000円？　話が違うと思ったが、あらわになった乳房をペンライトでいたずらに照らしてみたい。乳頭にピンポイントで緑の光をあててみたい。そんな欲求を抑えきれずに5000円払うと、女は焦らすでもなく、事務的にブラジャーをサッと取った。

　これで5000円かよ……。

　するとまた、女が近づいてきて、耳元でこうささやく。

　お兄さん、あと5000円出してくれたら、ペンライトでおっぱいつついてええで。

　いま考えると、ペンライトでつつくってなんだよと、ナメんなよと思うわけだが、初めてのおつかいで6歳児が手探りでおつかいに行くように、初めての｢のぞき屋｣で18歳児は完全に手探りなわけだ。そこにつけこんで、女はさらにささやく。

　お兄さん、あと5000円出してくれたら、触ってええで。

　もう、すでに14000円払っているわけで、このままペンライトでつんつんしただけで帰れるわけがない。もはや後戻りできないところまできているわけで、さらに5000円を払ったら、暗闇の奥から呼び込みの末成由美が出てきてこう言った。

　お兄さん、あんたいくら持ってんの？　帰りの電車代、大丈夫か？

　わかっていた。うすうす、これがボッタくりだと、竹の子剥ぎと呼ばれる種類のボッタくりだとわかっていたけれど、店の人間に心配されるってなんだよ……。船で愛媛からきたので、5000円あれば帰れると、財布の中にはあと10000円あると末成に告げると、ババアは生類憐みの令を出したときの徳川綱吉のような哀れな目で自分を見て、こう言った。

　あと5000円出し。わたしがしたげるわ。

　これから先の話は、したくない。

　すべてが終わって店を出る前に、末成におしぼりを渡された。もう、この店を出て地上に上がったら、すべてを忘れよう。なかったことにしてしまおう。そんなことを考えながらおしぼりで顔を拭いたら、そのおしぼり、生乾きで雑菌が繁殖したのか、信じられないくらい臭かった。

　生乾きのおしぼりのニオイを嗅ぐたび脳裏に浮かぶ、末成の顔。

　設定なんて悪くたっていい。店員の態度だって気にしない。データ機器を最新のものにしろだなんて言わない。だけど、おしぼりのニオイが臭いホールだけは、僕は許さない。

 

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