あのときオレはクズだった　第１回

　世界の子ども達が子どもらしく学び、子どもらしく遊べる環境作りを行い、かつ、音楽・スポーツ教育を通して子ども達のライフスキル(＝生きる力)を育むことをミッションとした特定非営利活動法人(NPO法人)セブンスピリットの理事長・田中宏明。これが、自分のいまの肩書きである。

　世界の子どものために。NPO法人。理事長。ライフスキル。英字で書かれた名刺には仰々しくPresident、プレジデントなどと書かれているし、なによりいま現在、自分が住んでいるのは日本ではなくフィリピンのセブ島だ。あれだけ外国嫌いだった自分が、いまや外国暮らし。ましてや子どもへの教育支援である。

　正直、昔は子どもなんてひとっつも好きじゃなかった。むしろ、学生時代は傘を振り回しながら騒いでいる小学生が邪魔でしょうがなく、よく自転車通学中に罵声を浴びせたものだし、親戚連中が盆や正月に家に子どもを連れてきても、ただうるさいだけの存在と煙たがっていた。それが、気がつけば子ども支援のNPO法人で理事長をしているのだから、まったく人生というヤツはなにが起こるかわからない。そして、だからこそ面白い。

　セブンスピリットを訪れるのは主に語学留学中の大学生や、社員旅行の方々。子ども教育にかかわる教育関係者や日本各地の商工会議所の人達で、はるばるフィリピンにまできて自分の意志でボランティアにかかわろうという人達ばかり。そういった人達がパチンコ・パチスロを日常的にやっている割合というのは残念ながら恐ろしいほど低く、もちろん、田中宏明という人間がパチスロ攻略誌のライターであることや、いつも飲んだくれて、くだらないことばかり書き散らかしていたという過去など知っているはずもない。言うなれば、彼らは自分を｢ゴミみたいな生活を送っていた元クズ田中｣とは認識しておらず、社会問題に真摯に取り組むマジメな理事長・田中宏明だと思っているわけだ。

　高校に上がったと同時に、ナメられないようにと急にヤンキーぶるやつを高校デビューなどと呼んだりするが、フィリピンに住み始めて以降、マジメに暮らしている自分は、まさにフィリピンデビュー。そして、意外にもそれを楽しんでいたりもするわけだが、まったく世の中には悪い人間がいるものである。

｢田中くんに過去のクズエピソードと、それにまつわるパチスロの回顧録を書いてもらい、その記事のアクセス数に応じて、なんらかの形で田中くんのNPO法人の活動を支援するという企画なんだけど、どう？｣

　と、半笑いでそう言ってくるのだ。NPO法人の活動はけして金銭的に余裕があるわけではなく、自分の返事がイエスの一択しかないという状況をわかった上で、｢へへへ、あんたいまでこそマジメな顔しているけど、もともとはクズじゃないか。支援してほしけりゃ自分はクズですって言ってみな｣と、企画モノのAVに出演した過去をひた隠しにする人妻につけ込むような手口でささやいてくる。支援を得るためにアクセス増加を周りにお願いすればするほど、自分の過去のクズっぷりが世間に知れわたる。まさに、打ったパンチが倍になってかえってくるクロスカウンター方式。敵は筋金入りのドSとみた。

　というわけで、だ。ホールの床をごきぶりのように這いつくばってコインを拾っていた話とか、我慢できずトイレにかけこんだ話とか、月の初日に生活費の95％を負けてしまって死にかけた話とか、友人に15年間完済できないような借金を背負わせるきっかけをつくった話とか、完全に無一文になった話とか、バアちゃんの仕送りで復活した話とか、ガイドで泥水をすすった若手時代の話とか、そんなことを当時打っていたパチスロのお話しを交えながら書いていくので、どうぞよろしくお願いします。

　というか、なんだろうか。ちょっと思い返しただけでもあふれ出てくる、このクズエピソードは。

田中宏明、33歳。たしかに、あのときオレはクズだった。



 

田中さんが理事長を務めるNPO法人セブンスピリットとは？→http://seven-spirit.or.jp/