【第2回】お題～もしパチスロに出会っていなければ～鈴虫君編

人生の半分をパチスロに捧げてきたから、今回のお題は酷すぎる。物心がつき、人生を自らの手で決められる年齢から打ちこんできたものに対し、それと出会ってなかったら…と考えるのは難しい。


現在、趣味と呼べるのはボートレースと将棋で、ボートレースは田中さんと出会って覚えたものだし、将棋こそ小学生のころから駒は触っていたが、情熱が再燃したのはここ数年で、ひょんなことからプロ棋士と知り合うことができ、改めて将棋のおもしろさに気づいたのがきっかけだ。


つまり、この世界に身を置いていなければ、これらの趣味に出会うこともなかったし、趣味を仕事にしようとの考えにもならなかっただろう。そうなると、時計の針を学生服の似合うころ、高校卒業を控えた18歳のころに戻す必要がある。ちょうど人生の分かれ道ともいえるころだ。


当時の鈴虫少年は北海道の工業高校に通っており、成績は下の下で帰宅部。絶望的である。就職校であるから卒業を3ヶ月前に控えたあたりでは就職先が決まっているころで、自分のクラスでは36人中35人が決まっていた。たったひとりの落ちこぼれ、何を隠そう、それが俺だ。ちなみに、地元の新聞社と大手の製紙工場の就職試験を受け、不合格だったことを付け加えておきたい。


困ったなぁ、これから俺はどうしようか。とりあえず、家でテレビでも見て、マンガでも読みながら考えるかって…そんなの3日で飽きるじゃないか。ここからは経験談も混じるが、時は高校を卒業して最初の4月。月末に初任給をもらった仲間たちの集まりがあって、職場の様子を語り合うのだ。仕事内容から上司、先輩の悪口をいっちょまえに語り、お前はどうなの？　あ、お前は無職だったか、ハッハッハ！　と、オチとしてイジられる。そして、いざ会計の時間になると、哀れみの目でお前は…いいよ、稼ぐようになったらおごってくれよなといわれるのだ。そんなの耐えられるわけないだろ。


こうなったら東京に行くしかない。2時間圏内にビッグ都市がない田舎者はとりあえず東京に憧れる。東京に行けばなにかあるんじゃないか、まるで根拠のない漠然とした想いと、長渕剛の名曲「とんぼ」だけが背中を押してくれる。今になって思うのは、東京という場所はたしかに夢がある都市だ。しかし、夢を叶えられる人間はほんの一握りで、志半ばで田舎に戻る選択ができる者はまだマシ。夢を追い続けるにしろ、あきらめるにしろ、引き返すことができなくなった人間が一番辛く、そういった人々の巣窟でもあるのだ。


さて、ひとり身で東京にやってきたはいいが、なにをしよう。自分が女性であれば確実に夜の仕事をやっているけれど、俺は男だし、顔に弱点があるから身体を武器とした仕事はできない。そうなると、ラクして稼ぎたいと、俺のブラックな部分がどんどん大きくなってくる。やはり、ギャンブルしかないか。ネオンがきらめく繁華街、その中でもひときわ輝き放っている建物に希望と、さみしさを解消してくれる力があるような気がして必然と吸い込まれていった。


そう、パチンコ屋である。やはり俺はここに行きつくのだ。すぐにパチスロにハマって、タネ銭が残りわずかな状況となったところで奇跡の勝利をおさめ、そこでようやく勉強をはじめる。コンビニで手に取った雑誌はパチスロ必勝ガイドで、最初こそなんてつまらない雑誌だと思ったけれど、次第におもしろさに気づき、いつしかここで働きたいと、大人になってから初めて本気で就きたいと思った職業がパチスロライターだ。


本来は、田舎で塗装業として働いているとか、ウシジマ君になっているか、ウシジマ君に頼る側になっているとか、まったく別の人生を想像した未来の答えを求められているお題だと思うが、どうしてもパチスロライター以外のイメージができないのである。思うにパチスロライターは天職ではないか。人の多くが、別の人生を選んでいたらどうだったかと想像すると思う。しかし、俺にはそれがない。そこまで強い気持ちがあるならもっと頑張ってこいよ…と、10年前の自分に強く言い聞かせてやりたいが、それは叶わぬ願いだから、せめて今は頑張れよと、穏やかな言葉をかけてやりたい。


本音をいうと、宇宙飛行士になりたかったんだけどなぁ。