あのときオレはクズだった　第32回　~第2部ガイド編~

イベントの始まりとお付き合いの終焉が交差する、その瞬間……


　嵐のような塾長おじさんとの『オモテでろ事件』を経て、しばらくは落ち着いた生活が続いていたわけだが、大学の授業に勝手にもぐりこんだことで知り合った同棲している彼女との仲は、5年目に突入して、すっかり冷え切っていた。


　朝に彼女が隣の部屋で仕事の準備をしている最中に目を覚ますと、彼女が出ていく8時まで寝たふりを決め込み、カチャッとドアが閉まった瞬間に起き出すような毎日。結婚しているわけでもないし、一緒に住む理由なんてもはやなくなっていたんだけど、惰性でなんとなく同居生活を送っているような状態だった。


　ちょうどそのころパチスロ業界はというと、2005年くらいから、いわゆる、いまでいうところの『来店取材』、当時の『イベント』というものが一部のライターの中で少しずつ始まってきていて、数ヶ月に1回程度のペースだったと思うが、ライターを呼んでイベントを行う店というのが出始めていた。


　いまでこそ数多くのライターが来店取材というものにかかわっているが、絶対数の少なかった当時、イベントに呼ばれるライターは、ほんの一握り。下っ端で、人気があるわけでもない自分にとっては関係のない話だと、そう思っていたわけだが、自分もその、イベントというものにかかわる機会が何度かあった。それは、呼ばれる側という立場ではなく、打ち手としてのかかわりである。


　いまはよく知らないが、当時はライターが来店するイベントというのは基本的に設定が入っていた。もちろんお店から設定など教えてもらうはずもないが、フラッと行って適当に座っても高設定にブチ当る可能性はそれなりに高かったわけで、当時のイベントのギャラがいくらだったかは知らないけれど、打ち手として参戦すれば下手すりゃ20万、30万勝てることだってある。というわけで、近場で開催されるときは参戦していたのだけど、とある日の晩、塾長おじさんから電話がかかってきたのだった(毎回、塾長おじさんの話をして申し訳ない。でも、それくらいよく遊んでいたのです)。


塾長｢田中、明日、オレ千葉の○○って店でイベントやるんだけど、車で迎えに行ってやるから一緒に行かねー？　この店、前回もすげえ高設定入れてたんだよ。かなりアツいと思うよ｣


　正直、その日、つまり電話があった翌日は彼女の誕生日だった。だけど、仲が冷え切っている彼女の誕生日と、激アツのイベント。どちらを取るかと聞かれたら、後者に決まっている。そりゃ、そうだ。だって、クズだもの。まあ、日中は彼女も仕事に出かけているわけで、最悪、仕事が終わって帰ってくる19時くらいに家に帰っていればいいだろうと、そのお誘いを快諾したわけである。


　実際、そのイベントは激アツだった。たしか、塾長おじさんと並びで『主役は銭形』を打って、二人とも明らかな高設定の挙動。展開に恵まれずお互い3万程度しか勝てなかったと記憶しているが、店内はまさにお祭り状態となっていた。


　お店との取り決めで17時まで打つということになっていたようで、17時に二人で実戦は終了(あとで聞いたところによると、ヤメた2台とも次に打った人が5000枚出したらしい)。塾長おじさんにも彼女が誕生日だということを伝えていたため、そのまま東京方面に向かって車を走らせていたわけだが、二人とも勝ったため車中では話がはずみ、途中の小岩駅前でメシを食って帰ろうじゃないかという話になった。


　まあ、まだ17時すぎだし、彼女が返ってくるまでに2時間ちかくある。軽くメシを食うくらいならいいだろうと、ラーメン屋だかに入ってメシを食ったわけだが、食い終わって店の外に出た際に、塾長おじさんが口を開いた。


塾長「このちかくに昔からの知り合いが働いているキャバレーがあるから、ちょっと寄って飲んでいこうぜ。大丈夫だよ。車は代行で帰るし、タクシー代くらい出してやるから」


　正直、なにも予定がなければ断る理由などない。小岩のキャバレーで楽しく飲むのはやぶさかではないのだが、たとえ仲が冷え切っているとはいえ、一緒に住んでいる彼女の誕生日にキャバレーで飲むのは、やはりなにか後ろめたいというか、ひっかかるものがある。第一、そんなことをしていたら、時間的に間に合わなくなってしまうじゃないか。


塾長「大丈夫だって。1時間だけだから、な？　まだ17時半だから、1時間飲んでタクシーで帰ればちょうど19時。ほら、間に合うだろ？」


　うーん。そう言われてみると、たしかにそうだなあ。……よし、じゃあ1時間だけならいいか。


　逃げ道さえ与えられれば、クズはいくらでも甘い誘いについていく生き物。1時間という約束はアルコールの魔力によってかき消され、そして……。


　ガッ、ガッ。23時に帰ると、家のドアにはチェーンがかけられていた。いくら叫んでも、家の中からはなんの返事も帰ってこない。もう、いいや。いまからまた、飲みに行こう。


　べろべろに酔っ払った午前3時。ひとりで泊まるのはダメだと言う受付のジイさんに頼み込み、ラブホテルの大きなベッドでひとり寝ながら、もう別れがすぐそこまで迫っていることを悟ったのだった。

 

いい。凄くいいよ。2回連続のクズっぷり。

先輩に誘われたんだから断れないのは仕方がない。 飲んじゃったら1時間で切り上げるのは困難ってのも分かる。 ただ、私だったら、下記の行動は恐らく出来ない。