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元・ホール店長カタギリのしくじり店長
2016.03.23
しくじり店長・第14回
ヤル気スイッチ終日オフのモロコシ野郎こと、タケハシ店長。
事務所で昼寝ばかりしている男の元で、日常業務をただひたすらこなすだけの毎日。
そんな腐りかけた日々を一変させるチャンスを与えてくれたのは、
実に思いもよらぬ人物だった。
脱獄直後の囚人を連想させる坊主頭と、ビタ押し名人のような鋭い目付き。
風の噂で聞いた趣味は、ビリヤードと性行為。
「ベテランAV男優みたいな人だな…」
それが、私のサガワ課長に対する第一印象だった。
普段はどこで何の仕事をしているのか、誰に聞いてもよくわからない謎の人物。
はぐれメタルのような存在感と、ヒットマンのようなルックスで有名な上司。
今までマトモな会話を交わしたことさえ無かった彼が放った一言が、
私の運命をパックリと切り開いたのである。
「なあカタギリ、ウチのハナビは何で(稼働が)ダメなんだ?」
まさに寝耳にカルピス。
いきなり過ぎる質問に、私の頭の中はカラッポになってしまった。
確かにウチの店のハナビは他店と比較しても客付きがイマイチであった。
が、 それを調整面での問題として片付けることは実に容易い。
だが、そんな質問を設定状況を知らない私に投げかけるだろうか?
確かに調整する立場に無い自分が稼働を上げる方法なんて、
今までは考えたこともなかった…。
もしかしたら自分にも解決できる理由があるのではないか?
だとしたらいったい、どうすればいいんだろう…。
椅子にふんぞり返ったまま、部下の返答を待つサガワ課長の凍てつくような視線。
その鋭さの前に、ただ立ちつくしたまま身動きも取れない私は、
長い長い沈黙の果てに、こう吐き出すのが精一杯だった。
「…自分にはわかりませんが、その理由がわかるまで頑張ります」
おそらくは真っ青な顔をしていたであろう私を上目遣いで見据えたまま、
サガワ課長は咥えたタバコを上下に揺らしながら、
お手並み拝見とでも言いたそうな顔でニヤリと笑っていた。
その日の夜。
私は一人で店に残って、自分自身の手でハナビを遊技してみた。
するとサガワ課長への答えは、実に簡単に見つけることが出来たのである。
ハナビの魅力といえば、フラグの成否を判別するためのフラッシュ。
その演出を生み出す、リールの裏側にある豆電球。
それらが幾つも切れていたのだ。
他にもレバーのグラつき、スピーカー不良による音の途切れ、
ボタンの接触不良、セレクターの汚れによるメダル感知エラーの多発。
数え挙げればキリが無いほどの整備不良が発覚したのである。
「そういえばこのシマ、サンドに紙幣も入りにくくなっていたよなぁ…」
その瞬間から私はブラック・ジャック顔負けの緊急オペを開始。
棚の中でむきだしのまま放置されていた豆電球を探し出して、
リールを外して不良品との交換作業。
これでバックライトの演出は完全復活だ。
お次はレバーの裏側のナットをキッチリと締め直して、
プレイヤーの願いを込めた一打を受け止められるように改善。
倉庫の奥から引っ張り出してきて、スピーカーも交換。
エアスプレーで細かいホコリを吹き飛ばして、ボタンの反応もバッチリ。
メダルセレクターのメンテナンス用品が無かったので、
コンビニで買ってきた弁当についてきた割り箸の袋。
その中に入っていたツマヨウジで汚れを削り落としてメダル詰りも解消。
さらには紙オシボリでコイン投入口と汚れたリールを拭いて、
青いハッピを着て微笑んでいたドンちゃんを男前に仕上げて一丁あがり。
仕上げにサンドのメンテナンス作業を終えた頃には、
繁華街とは思えない位に静まり返った店内は、朝焼けの光に包まれていた。
この日以降、毎日のイン枚数が8000に届かなかったハナビの稼働。
その数値が10,000を下回る日は1日も無くなった。
それは誰の目にも明らかな「結果」となり、
サガワ課長から与えられた質問への「答え」となった。
そして、その数週間後。
理由はわからないがタケハシ店長は地方の系列店へ「主任」として異動になり、
私は自店において念願の役職である「班長」へと昇格したのである。
もちろん、この一件が人事にどう影響したのかはわからないが、
更なる自信に繋がった出来事であることは言うまでもない。
そして、ここから先は少し愚痴っぽい話になってしまうのを許して欲しいのだが、
ホールの調整担当者は、機械から出力された紙に印刷された数値。
その多寡でしか台の判断を行わないことが多過ぎると思う。
稼働しない台を現場で確認することなく、データのみで評価して、
「この台は数字が下がってきたから、次の入れ替えで外してしまおう」
と安易な判断を下してはいないだろうか?
その台の音量や玉飛び具合、ボタンの効き具合などを確認もせず、
メンテナンスを行えばまだまだ稼働したであろう台でも平気で撤去してしまう。
そんな愚行が全国各地のホールで今なお、日常的に繰り返されている気がするのである…。
「部下に対しては、適正を見抜いた上で課題を与え、
部下は与えられた任務に対して、頭と身体を使って結果を出す」
これが棒を突くことが何よりも大好きな男、
サガワ課長の「部下への突っ込み」から学び取った私の指針である。
そして時代は、追い風と共に加速する。
役職を与えられた私は、更なる狂乱の世界へと足を踏み入れるのであった…。
カタギリ・今週の1枚
まろっこ先生に「ホル調」で描いて頂いた色紙。 しくじり店長にツッコミを入れる、くず神様の表情がナイスですね~。
編集長の一言
出世、おめでとう。
自分のことのように嬉しいよ。努力の方向性を決めてくれて、それをちゃんと見てくれる、良い上司に出会ったんだね。
そういう上司に出会えたこと、それもカタギリ青年の努力が引き寄せた幸運なんだと思うよ。本当に良かった。頑張ったね。
でもね。
3店舗潰した店長が全国の機械調整担当に意見するとは思わなかったよなぁ(笑)
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- 元・店長カタギリ
- 代表作:しくじり店長
シルバ〇アファミリーみたいに小さなパチンコ店の責任者から一転、 雑巾がけがメインの業務となってしまった事務員へとグレードダウン。 そんな設定①のスランプグラフのような半生を、隔週水曜日に連載させて頂いております。 タイトルは「しくじり店長」。 パチ屋の店長が平社員へと降格していく逆サクセスストーリーを、 海物語シリーズの泡リーチを見つめるような気分でお読みください。
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