ある日のお時間2

学生の時に長期休暇で実家に帰省するといつだって親父が行きつけのパチンコ屋に俺を連れてった。
金の無い俺に1万渡して俺に代打ちさせていた。

まぁほぼ隣だったが。

人の金で打てるなんて楽しい他無かった。

打っていると親父に色んな人が話しかけてくる。

あの人誰？と聞くと

「名前も何してるかも知らん」

は？

「あっちは俺の事知ってるけど俺は知らん。こういう場で何してる人とか名前とか聞くのは野暮だ。だから知らない。」

なるほど。
当時はそう納得した。

「まぁ今話しかけてきたのはこの店にいつもいる情報屋みたいな人だ」

ふーん…。
ん？情報屋？

「このリーチは期待度いくつだとかこのゾーンはどんなのだとか教えてくれる」

いや…雑誌情報かよ（笑）

そうこうしてる内に俺も当たった。当時打っていたのは大ヤマト2。

情報屋と言われる人が来て親父が俺を紹介していた。情報屋は俺の所にきて

「息子さんなんだって？親父さんよりパチンコ上手いんじゃねーか？」

そう笑いながら親父と話してる。

その店には大ヤマト2は2台しか入ってなかった。
情報屋がどこか行った後に
「いいかタイルまん。この2台はなぁ…俺とおじさんの義理と人情が詰め込まれた2台なんだ」

は？とうとう頭イッたか？
そう思ってもお祭りみたいな人混みでもモーゼの様に目の前の道が開かれる位、極めた道を歩かれてる方と勘違いされる風貌の親父にそんなツッコミは息子の俺でも怖くて入れられなかった。

おじさんって今の人かと聞くと首を横に振り
「この2台はな…今日はいないがおじさんと俺がいつも座っているんだよ。お互いが出てれば共に喜びあい…片方が出てれば励まし…どちらかが時間が無いが確変中だとなれば譲る…。そして次ここで会った時に謝礼として勝ち分の幾らかを渡す。そんな義理と人情に溢れた2台なんだよ。俺は勿論幾ら勝ったのか聞かない。ただ気持ちが嬉しいじゃないか。だから俺も渡す。そうやって生き永らえてる台なんだ」

おじさんって誰だよ！！

ご存知的な感じで話してるけど誰だよ！！

気持ちよく俺に諭すように話してるけどさ！！

「このヤマトの何がいいかって役モノが動くのがいいよな。ガショーンガショーンって！ヤマト好きだったから感動するな。けど俺の知ってる昔のアニメのヤマトとは違うみたいだけどな。けれど当たると気持ちいいんだよなぁ。そして止まらなくなるんだよこれ。」

台への愛語ってるけどおじさんの事教えてくれよ！！

俺は今おじさんの事で頭いっぱいだよ！

おじさんってどこの誰よ？
そう聞くと

「知らないおじさん」

おめーよく知らないおじさんの事でそこまで熱く語れたな！！
そもそも知らないおじさんと仲良くなって金のやり取りすんなよ！
そこまで来たら何してる人か位聞けよ！義理と人情語る前に素性を知っとけよ！！
なんで知らないおじさんの話を良い話にしようとしてんだよ！！あんたにとって知らないおじさんなら俺にとってはもっと知らない変なおじさんだからな！？

どういう人か少し知っといた方がいいと…

「当たった」

聞けよ！！

「なんか言った？」

もういいよ！！


お互いプラスになって勝った金を渡そうとすると親父はいつもいらないという。
この人にとってこれが俺へのお小遣いだった。店の外に出ると濃い潮の匂いがするのが印象的だった。

続く。

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