あのときオレはクズだった　~番外編③ in Japan~

3度目の正直で、いざ勝負。狙うは大きくボートで一本‼
 

　1回目はセブのカジノでバカラをやってほぼチャラに終わり、2回目はミリオンゴッドで、頂いたお金どころか自腹のおかわりまで追加する惨敗（編注）。コラムのアクセス数に応じてボーナスを与えるというのは実のところ罠でしかなく、自分がアツくなる性分なのを知った上でギャンブルの舞台に無理やり引きずり出し、のたうち回る姿をせせら笑うための企画でしかないと、少なくとも編集サイドはそう考えていると思うのだけど、今回ばかりは思惑通りに事が運ぶことはない。なぜなら、今回の勝負は自分がギャンブルの中でもっとも得意とする舟。ボートレースでの勝負だからである。

 

★編注
この支援金は田中氏が執筆する「あのときオレはクズだった」のPV数に応じて（1PV=1円）、パチ7編集長が田中氏にお渡しする個人的支援金。

 

　ボートが目の前を全速力で走り去り、ほのかに燃料のニオイが漂う平和島ボートの大時計近くで、覆面を脱いだ編集長はカバンからボーナスを取り出し、おもむろに差し出した。1、2、3、4、5……。編集部の思惑はどうであれ、このお金は皆さんがこのクズコラムにアクセスしてくださったからこそ手に入ったお金というわけで、感謝の気持ちを込めながら1枚ずつ数えていくと、6万6000円。これまでで最高額のボーナスを受け取ったわけだが、ボートの軍資金で6万6000円もあれば、完全に見えるわけだ。15倍の1点に全額を放り込めば、それだけで99万円。夢の一本が見えてくるわけだ。


　とはいえ、ボートに手を出すのはしばらくぶりのこと。ここで素人は自分を抑えることができず、闇雲に手を出して元金を目減りさせるものだが、自分は勝負勘が戻るまでの2レースは見。さらに、助っ人にきていた鈴虫君からここ最近のボートレース情報を聞き出し、予想の上に理論という名の肉付けをしていく。そして、すべての条件が揃った浜名湖SGダービーの第6レースで、満を持して動く。1-3に1万円を張って、プラス21000円。本当は全額いっても良かったのだけど、とりあえず、肩慣らしの21000円を手にすることとなった。
 

　これで軍資金は66000円に21000円を足した87000円。一本までのハードルは15倍から11.5倍にまで下がったわけだ。こうなると、あとは残りのレースを吟味して、2番人気、3番人気あたりのカタい3連単にブチ込むだけ。……デキた‼　心の中で小さな伊藤開司がそう叫んだのを、自分は聞き逃さなかった。

　しかし、である。3連単はあくまで3連単。ボートレースが6艇建てで当りやすいとはいっても、「手堅い3連単」というのは「誠実な結婚詐欺師」と同じように成り立たない言葉であるからして、疑心暗鬼になり、守りに入る。これはこないかもしれないと見に回ったレースが読み通りきて、頭に血がのぼって強引に買ったレースをあっさりとハズす負のスパイラルによってみるみる軍資金は減っていき、最終12レースに起死回生を狙って高めの3連単を狙いにいった結果、どうなるか。あっさり本命サイドで決着して、ポケットに入ったもはやゴミクズでしかない舟券を投げ捨てることになるわけだ。
 

　66000円。MAXから考えれば87000円を失った帰り道に、無料のシャトルバスではなくタクシーで最寄り駅まで戻るのはギャンブラーとしての意地……ではなく、パチ7にタクシー代を出させるため。イタチの最後っ屁のごとき嫌がらせをして、やけ酒を煽ろうと鈴虫＆編集部＆代理店の人間と居酒屋にかけこんだわけだが、2人いるはずの代理店の人間が、なぜかひとりしかいないのである。いやいや、遅刻はよくないなあ。朝の集合時間に平気な顔をして遅れたことを棚に上げて詰問すると、こんな答えが返ってきた。


　近くのホールにはいるんだけど、牙狼の連チャンが止まらないみたいで……。


　その瞬間、鈴虫と目があった。言葉を交わさなくても彼の考えがわかったし、自分もまったく同じ考えだった。そして二人の飢えた狼は次の瞬間からスマホを駆使して、まだ買えるボートレースを調べ始める。


　ボートレースは1日に約10場でレースが行われているが、そのうちの3レースくらいは遅い時間帯、つまりナイターレースが行われている。その日に行われていたナイターは蒲郡、丸亀、若松の3場。現在時刻は19時半で、最終レースの投票締め切りは20時半すぎ。そして、丸亀の最終レースは1コースの選手が圧倒的に強い、まさに勝ってくださいと言わんばかりのレース。……デキた‼　心の中で伊藤開司が、全力でガッツポーズをしている姿が、はっきりと見えた。 　


　20時をすぎたころにやってきた代理店の男が牙狼で叩きだした玉は、5万発。ここからいったい、いくらを引き出せるのか。自分と鈴虫による、マネーの虎さながらのプレゼンが始まった。

　オレはボートを長いことやってきたけど、ここまでわかりやすいレースはいままでほとんど見たことがないっすよ。

　お金が落ちているのに拾わない手はないじゃないですか‼

　的中した暁には、投資していただいた額の倍の金額をお渡しすることを約束します。

　そのあぶく銭があれば、風俗にだって行けますよ‼

　どのプレゼンが効いたのかはわからないが、風俗の話を持ち出したあたりから虎の表情が変わったのを察知。結局、2万円を投資として出してもらい、さらに自分と鈴虫に対して1万円ずつ、融資を。計4万円のお金を引き出すことに成功したわけだ。
 

　的中すれば本日の負けが戻ってくるどころかプラス域にまで浮かぶことができる大レース。いい年した大人がスマホを囲んで、緊張の中でいよいよレースが始まったわけだが……嗚呼っ‼


　本命ガチガチだと信じて疑わなかった1コースの強豪選手がまさかのスタート遅れで、レースが始まった2秒後には敗北を確信する、絶望的な展開。圧倒的、敗北……‼‼　心の中の伊藤開司が、焼き土下座をしていた。


　結局、今回もボーナス金をすべて遣い果たしたばかりか、融資の1万円は自腹。またしても編集部の思惑通りの1日になってしまったことは非常に遺憾だし、こんな非道を行うパチ7に対して皆さんと一緒にデモを決行したい気持ちもあるにはあるが、ギャンブルというのはつまるところ、最後に勝てばいいのである。最後に勝ったやつが真の勝者なのである。


　というわけで皆さん、今回は皆さんのご厚意を活かすことができませんでしたが、次回。次回こそはやってやりますので、引き続き、腱鞘炎になる間際までアクセス連打していただけますよう、お頼み申し上げます。


　あーーーー、悔しいっっ‼‼
 

代理店の方から出資を求める際のお二人はとても素晴らしかった。あれ？田中さんってこんなに雄弁だったっけ？ あれ？鈴虫君ってこんなに理論派だったっけ？ と思わせるほどの熱弁は確かに人を動かす力を持っていた。恐らく代理店の方を動かしたのは、

「僕、まだこのオッズが間違えていると思ってますもん」

の言葉。ガチガチな本命なのにこんなにいいオッズなんて信じられるかい？ という意味合いの言葉であるが、これが代理店さんを動かした。そう思っています。

そしてレース後に一切謝ろうとしない二人は見事の一言。

私が渡す個人的支援金で華々しく散って頂き、田中氏のクズっぷりを読者の皆様にお届けしたい、というのが密かな想いではあるが、さすがに田中氏・鈴虫君両名が文無しになり、肩を落としている姿には心が痛んだ。あぁ、なんか悪いことしたな…と。

そう思った矢先の代理店さんへの絡み。そして図ったかのような敗北を見るにつけ、私は安心しました。あぁ、彼らはなにをどうやってもクズに落ち着くんだな…と。